町で評判の銘菓と言えば、それはやっぱり兎饅頭だろう。
兎饅頭は商店街にある黄色いテントの屋根の、小さな和菓子屋で売られている。
店の名前は別にあるのだが、テントの屋号が剥がれているせいで、町の人たちからは「うさぎ屋」と呼ばれている。

うさぎ屋には最中や大福、おはぎやおでんなんかも売っている。そんな綺麗で美味そうな菓子の中に、生まれて間もないだろう、真っ白な仔うさぎたちが丸まっているのは不思議な光景だ。
他の商品と同じく値札がかけられているが、いかにもふかふかと柔らかそうで、どう見ても生きている兎に見える。
正真正銘、求肥と餡で出来ている(つまり饅頭と言うより大福である)お菓子だそうで、そこは職人の技に感服せざるを得ない。初めて店を訪れた客はその愛らしさに魅せられて絶対に兎饅頭を1、2羽買って帰るのだそうだ。そして数日後、再び買いにやってくる。

ひょんな事から兎饅頭を一羽貰ったRは、真っ白な丸い饅頭を机に置いて眺めていた。ずっと見ていると少し動いたような、そんな錯覚を覚える。
問題はあんまり可愛いので、食べようと黒文字を挿し入れるのが忍びない事だ。
結果、かわいいなあと眺めて終わり、気が付いたら黴が咲いてしまっていた。

味もなかなか、と聞いていたので、後日店に行って自分で買うことにした。
母親に連れられてきた女の子が、早速包みをほどいて中を覗いている姿が微笑ましい。
店の人が、この町で育った大人はなんの躊躇もなく半分に割って食べるよ、と言ったので、買ったばかりの兎饅頭を見ながら、Rは自分もいつかそうなるんだろうかと考えた。