あるところにとうの昔に壊れたちっぽけな遊園地が御座いました。
お粗末な仕組みの遊具しか持たない遊園地でしたが、観覧車や回転木馬なども小さいながらに御座いまして、それはもう遊園地が物珍しい時代に作られたものですから、公開当初は大変な賑わいであったそうです。
拙いなりに意匠を凝らして作られた遊園地は園長の自慢で、当時の子供たちの憧れで御座いました。そうして、遊園地もそんな人間たちが大好きだったのです。

遊園地はお客さんが楽しそうに遊んでいた事をよく覚えておりました。
それだけに今の、まるで誰も来なくなった錆びた自分の姿を悲しく思いました。
もしも最新式の遊具があったならまたお客様は来てくれるだろうか。楽しい音楽を鳴らして呼んでみてはどうかしら。道化や動物で賑やかにしてみたら素敵かもしれない。珍しい異国のお菓子を沢山用意したら子供たちは喜ぶのではないか。ぴかぴか光る宝石を散りばめたらお洒落で女の子も気にいるだろう。
くる日もくる日もそんな事を考えてみては、蔦だらけの躰をきいきい鳴らしてばかりいました。

そんなある時、立派な髭を生やした紳士が遊園地の元へやって来ました。
遊園地はここぞとばかりに精一杯歓迎しましたが、想像していた沢山のおもてなしは、実際にはひとつもできませんでした。できる事と言えば、せめて紳士が入りやすいように、壊れた門を傾けてやるくらいです。
それでも紳士は、満足そうに微笑んで遊園地に言ったのです。

「なんて素敵な遊園地だろう。お前はずっとそのままでいい。寂しいというなら、私が人間を連れてこよう」

紳士はその言葉どおり、人間を少しずつ連れてきてくれました。
遊園地が訪れた人間を楽しませようとしますと、どうした事か、人間たちには自分の想像する一等素敵な遊園地に見えるようなのです。
人間たちは遊園地を大好きになって、それがどんな厳しいお顔をした大人でも、すっかり夢中になって遊びました。
遊園地は不思議に思いましたが、人間が遊んでくれるのが嬉しくて紳士に感謝しました。
楽しい日々の始まりです。
しかしそれも長くはなく、ある日紳士は自分の役割を別の人間に譲って、いなくなってしまいました。

紳士の代わりにやって来た人は、当たり前ですが紳士とは違う人間でした。
彼は恐怖についての研究をしていました。
彼が支配人になると、遊園地には沢山のお化け屋敷や奇妙な仕掛けができました。
中でも鏡の迷宮という鏡張りの迷路で人間を迷わせるのが、遊園地は好きでした。

その次にやって来た支配人は女支配人で、とても贅沢が好きでした。
彼女に合わせ、遊園地には花が咲き乱れ、優雅な装飾の華やかなお仕立てになります。
彼女が開くお茶会で、みんなが楽しそうにお喋りしているのを聴くのが、遊園地の楽しみです。

その次の支配人は何を考えているのか分からない男で、遊園地の奥にある屋敷にこもりがちでした。
遊園地の外壁は高く分厚くなり、人間もたまにしかやってこないので、遊園地は少しさみしい思いをしました。

その後も何人も支配人がやって来ましたが、どの人もあんまり長くはいられません。
遊園地は支配人がもっと長持ちしたらいいなあと思うようになりました。
すると次にやって来た支配人は、簡単には死なないようになっていました。

新しい支配人が来ると、遊園地は元の姿に近い形になりました。
その支配人は最初の支配人と少し似ていて、そのままの遊園地が好きだと言います。
遊園地は穴や錆びだらけの躰を恥ずかしく思いましたが、支配人がそう言うのならばとそのままでいました。
相変わらずやって来る人間には理想の遊園地に見えているようですが、人がいるならそれで嬉しかったのです。

けれどもそのうち、遊園地は気付きます。
支配人が呼んできてくれた人間たちがいつの間にか居なくなってしまうことに。
出口を隠したはずなのに、いつもそこには最近支配人が連れてきた人間しか遊んでいません。
今までの支配人たちが連れてきた人間たちは一体何処へ行ってしまったのでしょう。
遊園地には、人間が死ぬということが良く分かりませんでした。
ただただ愚かに、目の前の人間を楽しませようとする事しかできません。
遊園地は今まで来てくれた人間みんなともっとずっとずっと遊んでいられたらいいなあと支配人に言いました。
しかし、それは叶わない夢だと、支配人は教えてくれませんでした。